リーダーの堪忍袋

リーダーの短気が一族の凋落(ちょうらく)を招くという事例は歴史上、枚挙にいとまがない。たとえば戦国(せんごく)時代の大隅半島には肝付兼続(きもつきかねつぐ)という武将がいた。縁戚関係を結んで友好的だった島津(しまず)ともめて没落するのだが、発端(ほったん)はささいな口論で怒りを爆発させたことにあった。

宴席で肝付側の出した吸い物を島津川がまずいとからかう。双方の言葉がとがり、島津は鶴(つる)の描かれた幕を切る。兼続の堪忍袋はこれが限界。「家紋の鶴を切るとは許しがたいと席を立つ。戦端(せんたん)を開き、最後は敗れ去る。

史話を伝える桐野作人(きりのさくじん)著『さつま人国誌』によると、両家は鎌倉(かまくら)時代からの宿敵。策謀にたけた島津の挑発のように映るが、教訓はいまにも通じる。指導者は常に冷静でなければ務まらない。

安倍晋三(あべしんぞう)首相が近く、閉会中審査に出席する。「私は立法(りっぽう)府の長」「早く質問しろよ」。問題発言の多くはイライラの産物である。獣医学部新設をめぐる質問の砲火(ほうか)に平静さを保てるだろうか。

アンがーマネジメントという言葉がある。怒りで自分を見失う前に、冷静さを取り戻す方法を教える。相手方の前を一度離れてみよ。熱くなった自分を見下ろす自分を思い描く。。。

これまでの答弁や会見を見て、首相の堪忍袋の強度および容量には懸念を抱かざるをさえない。感情的になって口をとがらせるのでなく、疑問に一つずつ答えて、膨らむ批判を解消する。それこそが首相には最良のアンがーマネジメントのはずである。